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夏村さんは最強です ヤンキーが彼女だったら地獄をみるかとおもったら人生好転して最高だった件
夏村さんは最強です ヤンキーが彼女だったら地獄をみるかとおもったら人生好転して最高だった件
Author: レッズおやじ

プロローグ

last update publish date: 2026-10-31 20:18:31

 今は昔――。

 ふと目を覚ますと、そこは二十数年前に通っていた高校の教室だった。

 夢にしては妙にリアルで、机の木目のざらつきが掌に伝わり、窓から差し込む朝日の眩しさに思わず目を細めてしまう。耳に入ってくるのは、まだ誰もいない校舎特有の、遠くで鳴る足音と、換気扇の低い唸りだけだった。

 教室内をゆっくりと見渡す。

 どうやら高校に入学して、まだ数日しか経っていない頃らしい。

 窓際に陣取っているヤンキー連中の机が、妙に綺麗なままだったからだ。

 彼らが机に落書きを始め、脚を蹴って歪ませ、天板に無数の傷を刻み始めるのは、もう少し後の話だったはずだ。

 この高校は、俺が入学する年に新校舎が完成した。

 新品の机と椅子。まだ誰の汗も染み込んでいない床。微かに残る、木材とワックスの匂い。

 あの「新しい場所に放り込まれた」独特の感覚を、俺は今でもよく覚えている。

 俺は毎朝、誰よりも早く学校に来ていた。

 通勤ラッシュで混み合う道路を避けるため、少し早めに自転車を飛ばし、校門が開く時間に合わせて登校する。

 日直が来る前に教室の掃除を済ませ、ひとりきりの教室で予習をする。

 それが、高校に入ってからの習慣になっていた。

 家で机に向かうより、ずっと落ち着いた。

 家では、いつも誰かの視線を感じていたからだ。

 具体的に何かを言われるわけでもない。

 ただ、背中に貼り付くような、無言の圧。集中しようとすればするほど、思考が散っていくあの感覚。

 あの場所では、どうしても長く机に向かっていられなかった。

 ……俺は、高校受験に失敗した。

 もちろん、原因は自分にある。努力が足りなかった部分もあるし、判断を誤った部分もある。

 けれど、それだけではなかった。

 中学時代、俺は自分でもどうにもならない何かを、ずっと抱え込んでいた。

 逃げ道の見えない迷路に閉じ込められ、出口を探しても壁にぶつかるだけ。誰にも打ち明けられず、誰にも理解されないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

 あの頃の自分を、今でも夢に見ることがある。

 だからこそ、この高校では心機一転、勉強にすべてを注ごうと決めた。

 幸い、中学の同級生は一人もいない。過去を知る人間はいない。

 ここでは、受験に失敗した過去に縛られることなく、これから先の自分として歩き出せる。

 大学合格という、明確な目標に向かって走るには、これ以上ない環境だった。

 「とん、とん」

 肩を軽く叩かれ、俺は振り返った。

 そこに立っていたのは、メガネをかけた小柄な女子生徒だった。

 少しだけ寝癖の残った髪を気にするように押さえながら、屈託のない笑顔を向けてくる。

「かずくん、おはよう! 今日も一番で勉強? すごいね、ほんと頑張ってる」

「いやいや。家だと落ち着かないだけだよ。ここだと集中できるんだ」

 そんな他愛ないやり取りが、いつの間にか毎朝の風景になっていた。

 同じクラスには、俺が勝手に「勉強仲間」と呼んでいるメンバーがいる。

 大学進学を目指す連中が自然と集まり、模試や参考書の情報を交換し合う。彼女もその一人だった。

 気づけば、朝に顔を合わせて話をするのが当たり前になり、放課後に一緒に残って勉強することも増えていた。

 恋愛感情というほど明確なものではない。ただ、確実に、俺にとって欠かせない存在ではあった。

 クラスというのは、小さな社会の縮図だと思う。

 気の合う人間もいれば、どうしても距離を取りたくなる人間もいる。

 そうやって、人は人付き合いを学びながら、少しずつ大人になっていくのだろう。

 とはいえ、できれば面倒事は避けたい。

 特に、窓際に陣取っているヤンキー連中だ。

 当時の高校生といえば、リーゼントを固め、ペラペラの学生鞄を小脇に抱え、廊下の真ん中を肩で風を切って歩く――そんなイメージがまだ色濃く残っていた。

 もし目をつけられてパシリにされたり、カツアゲを食らったりしたら。

 考えるだけで、胃の奥がひやりとする。

 だから俺は決めていた。

 目立たず、当たり障りなく。

 それが、俺の高校生活のモットーだった。

 ……そう思った矢先、目の前の光景が、ふっとかき消える。

 黒板の上の時計を見ると、針はもうすぐ八時を指していた。

 これから、チャイムが鳴り、担任が入ってきて、同じような一日が始まる。

 さっきまで見ていた光景も、このあと、まるでなぞるように繰り返されるのだろうか。

 ――いや。

 人生は、そんなに単純にはできていない。

 人の縁というものは、絡み合い、ぶつかり合い、ときに思いもよらない方向へと転がっていく。

 避けていたはずの場所に立たされ、関わるつもりのなかった人間と深く関わることになる。

 そんな縁に押し出されるようにして、俺と、俺に関わった人たちの物語は、静かに――しかし確実に、動き始めていくのだ。

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  • 夏村さんは最強です ヤンキーが彼女だったら地獄をみるかとおもったら人生好転して最高だった件   第0章 夏村さんは最凶です(3)

     ◇◇ 入学式当日 ◇◇ 決意も新たに、俺は鏡の前で頬を二、三発、軽く叩いた。 痛みというより「音」でスイッチを入れる感じだ。(よし。今日からだ) 登校の準備はできている。制服も、鞄も、書類も、靴も。 あとは母が部屋から戻ってくるのを待つだけ――のはずなのに、やけに落ち着かない。胸の奥がそわそわして、手持ち無沙汰で机の端を指でなぞってしまう。 俺は、人生をリセットするためにここに来た。 中学時代の“闇”を引きずらず、誰にも知られず、ただ静かに三年間を走り切る。 目立たず、揉めず、勉強して、大学へ行く。 そのための高校生活の始まりが、今日だ。 母が戻ってくると、俺たちは一緒に家を出た。 最寄りのバス停までは徒歩で数分。通学そのものは、たぶん不便じゃない。たぶん――。 俺と母は、バスが混むのが嫌だった。できれば座りたい。 だから少し早めに家を出て、『大久保浄水場』行きのバスに乗り込んだ。 大久保浄水場といえば、荒川の水を飲み水として市内に供給する場所で、小学校の遠足で見学したことがある。巨大な設備と、消毒薬みたいな匂いだけが妙に記憶に残っている。 そんなことを思い出すあたり、俺はやっぱり緊張していたのだろう。 バスに乗ると、俺と母は別々の席に座った。 時間が早いとはいえ、車内にはそれなりに人がいて、並んで座れる空席がない。 俺は窓側の席に腰を下ろし、窓枠に頬杖をついて外を眺めた。 十数分もすると、車窓の景色は都会から田園風景に変わっていく。建物の密度が薄くなり、空が広がり、畑が増える。荒川沿いの風のせいか、木々がどれも同じ方向に少しだけ傾いて見えた。 ――俺は、たぶん車内の景色をちゃんと見ていなかった。 緊張と興奮で、視界は外に向いているのに頭の中は別のことばかり考えていた。 このバスに、同級生になる人間が何人乗っていたのか、まったく覚えていない。 『大鳳高校前』で降りると、通学路は桜並木になっていた。 花が散り終わり、緑色の葉桜に染まった枝が風に揺れている。春はちゃんと進んでいるのに、俺だけがその流れに置いていかれそうで、ほんの一瞬、胸がざわついた。 校門をくぐり、校内の掲示板を見る。 そこには、各クラスの担任名と所属生徒の氏名がずらりと書かれていた。 一組、担任は渋谷先生。 一組という響きだけで、なぜか「幸先

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